Novel-01〜マークシート式テストに潜む魔物〜

 

「はあ……」
 リリイちゃんの元気がない。
 何かあったのだろうか。ここは部長として元気づけて置く必要があるわね!
「どうしたの? リリイちゃん。落ち込んじゃって」
 私がリリイちゃんの隣に座って言うと、リリイちゃんは
「なんで変えちゃったんだろう……」
 とぼそっとつぶやいた。
「変えたって、何を?」
「マークシートのテストで同じ数字がずっと続くから答えに自信がなくなって変えちゃったんです」
 ははあ。それで後悔しちゃってるわけね。これは私もたくさん経験がある。
「マークシートには魔物が潜んでいるからね」
「魔物ですか……」
「そう、人の心を惑わす迷惑な奴」
 というと、瑠衣先輩が部室に入ってきて、私たちの正面に座った。
「今日はなんの話なのかしら?」
 瑠衣先輩がそう聞いたので、私はこう答える。
「マークシート式テストに潜む魔物についてです」
「魔物ねえ。魔物って何よ」
「同じ選択肢の答えが続くどこかの答えが間違っている気がしてくるアレですよ!」
 先輩の目が変わった。何ですか先輩その私を蔑むような目は。今回ミスったのは私じゃないですよ。
「い、いや。今回はリリイちゃんがテストで魔物にやられまして……」
「あなたはそれ以上にやらかしているわよね」
 ギクッ。
「まあでも、同じ選択肢が並んでいる状態が気持ち悪いというのは分からなくはないけれど」
「ですよね。簡単なように見えて一筋縄ではいかない厄介なテストですよ」
 リリイちゃんは点数が表示されている紙をぼーっと眺めながら言った。
 リリイちゃんでもそういう間違いを犯すと思うと、なんだか少し……
「そこ、身近に同じ過ちを犯した人がいるからって安心しない」
「ひぃっ!」
 さすが瑠衣先輩……。完璧に見ぬいてやがるぜ……。
「ともかくね、こういうのは同じ数字が続いても自信が揺るがないくらいまで勉強すればいいのよ」
 先輩はリリイちゃんに言ってるはずなのになんだか私の心がえぐられる……。
「勉強不足ですか……。私、もっとがんばります」
 リリイちゃんは、先輩の言葉でもっと勉強しようと決意したようだ。
「あなたもね」
 瑠衣先輩が私を見て言った。
「はい?」
「私がみっちり教えてあげる」
 そんな笑顔で言わないで! 
 私はさり気なく鞄を取り、逃げ出す体勢になるが、
「捕まえた」
 先を読まれていて、瑠衣先輩にガッチリ捕まってしまった。
「いやー! 助けてー!」
 リリイちゃんはクスクスと笑っていた。

Novel-02〜戦隊シリーズ〜


「戦隊ものってみたことある?」
 弥生先輩は唐突に切り出してきた。
「小さい頃になら見たことあります」
「私も見たことあるわ」
 瑠衣先輩も見たことがあるらしい。
 まあ、日曜朝の時間帯の特撮とかアニメとかを見てた人はおおいかもなあ。
「あの戦隊の人達に世界を任せてもいいの?」
 この人、正義の味方を疑いはじめた。
「モンスターを倒してくれるのはあの人達くらいじゃない。まかせるしかないわよ」
「なにか不満なんですか?」
「毎回モンスターを仕留め損なって巨大化させるし、仲間割れしたり」
 弥生先輩はその点が気に食わないらしい。
「あれって仕留め損なっているのかしら。第二形態じゃなくて?」
 瑠衣先輩の言うように、私もそのようなものだと思っていた。
「あれはね、ドッカーンと木っ端微塵にするなりなんなりして一発で決着付けないと!」
「なかなかひどいこと言いますね、先輩……」
 決定力がなさすぎるってのはあるかもしれないけど……。
「でも、仲間割れは仕方ないじゃない。喧嘩だってするでしょう。にんげんだもの」
「相田み○を!?」
 瑠衣先輩の言うように喧嘩の一回や二回くらいあってもいいような気がするけどなあ。
「それに一般的に悪と言われている方にもそれなりの正義感ってあるでしょ?」
 聞くと、弥生先輩としては「この世界を征服して自分たちの住みやすい世界にしたいとか、そういうのはあちら側としては正義になり得る」らしい。
「正義なんて曖昧なもの、自分の立場とか心境でどうとでも変化していくのよ」
 瑠衣先輩はそう言った。確かにそうでなければ対立なんて起きないだろうし。
「多分、悪の方も子供とか家族とかいますよね」
「小さい頃はそんなの考えずに見てたけど、そう考えるようになるとなんとも言えない気持ちになる」
 そんなこと言われるとこっちまでそんなふうに思ってしまう。でも、
「あっちから侵略しているんだから私達がどうこう思う必要はないんじゃないですか?」
「侵略してる、されているにかかわらず私たちは共存の道を探すべきだわね」    
 と、瑠衣先輩。ああ、なるほど。そういう道を目指したいのか。
「こっちが相手の言葉を理解しているのか、相手が日本語を喋れるのかはわかりませんけど、言葉は通じてますしね」
「そう。戦わずして世界を平和に。ね!」

Novel-03〜万引き防止用のゲート〜


「ごめんごめん待たせちゃって」
 私達日常研究は放課後に弥生がCDを買いたいというので、三人でCDショップに足を運んだ。
「CD以外に買うべきものがあるんじゃないのかしら?」
「え……それは……」
 私とリリイちゃんはたまたま参考書コーナーの周囲にいたから、だいたい察しがついたのだろう。
「先輩って理数が苦手なんでしたっけ?」
 実は先ほど、私がリリイちゃんに言ったのだ。
「違うの、バリバリ得意なのよ」
 と、いうと入口の方へ逃走した。
 私とリリイちゃんはその後をついていく。
 ちょうど弥生が店から出ようとした時、アラームが鳴り響いた。
「ひぃ!」
 弥生は驚いて立ち止まった。その後、すぐさま店員が弥生のもとへ駆けつけた。
 万引き防止用のゲートが反応してしまったのだ。
「かかかかちゃんと買いましたよ!」
 弥生があたふたとしながら店員に事情を説明すると、対処をしてくれたようだ。
 三人とも店を出て歩道を歩く。
「もうあれ生涯で二度目よ……。あの不意打ちは心臓が飛び出るレベル」
 弥生はヘトヘトになっている。
「普通に片付いちゃって少し残念です」
「ちょっ、リリイちゃん!?」
 確かにあっさりしていたから非常に残念ね。
「あれ、何もしてなくても周りの視線が痛くなるじゃないですかー。あの現象は一体何なのか……」
 弥生は一度引っかかって以来ビクビクしながらあのゲートを通るようになったらしい。
 少し弥生をおちょくってみよう。
「知ってた? あれって怪しい人に引っかかるのよ。私なんか一度も引っかかったことないもの」
「ええ!? リリイちゃん、私って怪しい?」
「いかにもです」
 リリイちゃんは即答した。
「ええ!?」
 弥生はショウウィンドウのガラスに自分の姿を写し、じっと自分を見ている。
「いや、どう見ても美少……」
「ふざけないでちょうだい」
「ふざっ……」
 弥生はショウウィンドウから離れ歩き出した。
「こんなにネタになるならいくら引っかかってもいいんだけどな」
 と弥生は笑いながら言った。
「本当にやったら、すごいネタになるわよ」
「そんなことするか!」

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